2010年12月の記事です。
≪2010年10月 2011年1月≫
書いた人: hysd | 10/12/07 12:00
更新に間があいてしまいました.わたしです.
すっかり空気も冷たくなってきました.自転車の服装選びが大変な季節になりましたね. 心拍センサーを胸に巻きつけるとき,電極のヒンヤリ感がとてつもなく攻撃的になるのがこたえます.
さてこの日記では,これから何回かにわけてトレーニングについて少しずつ書いていこうかと思います.
今から書くことについては正直知らなくたって体を鍛えることはできますし,トレーニング中にこんなまどろっこしいことを考えているのかというと私自身怪しいですが,これらの知識は自分の体型や目的にあった適切なメニューを考えるときやケガの予防にも役立つかと思います.
トレーニングといえば,まずは筋力を鍛えるか,循環器系を鍛えるかという目的に大別されます.今回は循環器系トレーニングについて理解するために必要な知識,具体的には運動(=筋肉の収縮)を行うための原動力となる,ATPについて書いていきます.
ATPとはアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate)のことであり,筋肉の収縮にはこれがADP(アデノシン二リン酸:adenosine diphosphate)とリン酸に分解するときに発生するエネルギーが使われています.
余談ですが12月3日未明,NASAからDNA中のリンがヒ素に置き換わった微生物が発見されたとの発表がありました.生命活動にATPではなくATAs(アデノシン三ヒ酸)を使っている生物が,この宇宙上に存在しているのかもしれません.
人間が運動を続けるために体内ではADPをATPに戻す作業が絶えず行われており,その生産ラインは複数存在します.いわゆる「有酸素運動」「無酸素運動」という区別はこのATP生産ラインの区別にほかなりません. もちろん,ある運動強度を超えた瞬間にパチッとスイッチが切り替わるわけではありません.それぞれのラインが互いに協調してATPを生産しているわけですが,大きく分けると以下のイラストのようになります.
なるほど,全然わからん. 順に説明します.
一番分かりやすいのがATP-CP系.これはイラストで十分理解いただけるかと思います. シンプルだけあってその生産スピードもとても早く,瞬時に爆発的なパワーを必要とするときに働きます.しかしCP(クレアチンリン酸)は体内に極少数しかないため,この生産ラインは10秒弱で在庫切れになってしまいます.
体内のCPを使い切ると,続いて解糖によるATP生産が始まります.嫌気的解糖(無酸素運動)が行われれば筋肉中には乳酸が蓄積されます.乳酸は体内のpHを下げ(酸性に傾け)る働きを持っており,「筋肉を収縮させろ」という脳からの命令が伝わりにくくなっていきます.巷で乳酸が疲労物質と言われる所以です.
呼吸により体内に十分な酸素が流れていると,解糖で作られたピルビン酸や乳酸はアセチルCoA(活性酢酸)に変化することができ(好気的解糖:有酸素運動),これによりTCAサイクル(クエン酸サイクル)が始動します.またイラストにもあるように,脂質やタンパク質もTCAサイクルに寄与する様々な物質へと変化しATPを作り上げています.
(乳酸はそれ以外にも,血液によって肝臓に移動し,再び糖(グルコース)に戻る「コリ回路」による処理もされています.乳酸を一概に「疲労物質」と呼んで忌み嫌うのは,あまり正しい認識とは言えません)
さらにこのTCAサイクルは電子伝達系の起爆剤(NADH:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を大量に作り出しており,好気的解糖から電子伝達系までの一連の反応をトータルで見ると,グルコース1分子から実に38ものATPをつくることになります.強度の弱い有酸素運動では素早い生産スピードが求められない分,結果的に多くのATPを手にいれることができるわけですね.
以上でやっと前置きが終わりましたが,記事が長すぎるのもアレなので続きはまた今度. 今回の話題についてもっと詳しく知りたい方は,文中のキーワードをぐぐればたくさん情報が出てきますのでそちらを御覧ください.
次回は以上の知識を踏まえた上で,いよいよ循環器系トレーニングの紹介をしたいと思います. エネルギー生成の仕組み,自分の体格,現在の体力と自分の目標を明確に把握していれば,どのようなトレーニングを行うべきかは自然と見えてくるはずです.
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更新に間があいてしまいました.わたしです.
すっかり空気も冷たくなってきました.自転車の服装選びが大変な季節になりましたね.
心拍センサーを胸に巻きつけるとき,電極のヒンヤリ感がとてつもなく攻撃的になるのがこたえます.
さてこの日記では,これから何回かにわけてトレーニングについて少しずつ書いていこうかと思います.
今から書くことについては正直知らなくたって体を鍛えることはできますし,トレーニング中にこんなまどろっこしいことを考えているのかというと私自身怪しいですが,これらの知識は自分の体型や目的にあった適切なメニューを考えるときやケガの予防にも役立つかと思います.
トレーニングといえば,まずは筋力を鍛えるか,循環器系を鍛えるかという目的に大別されます.今回は循環器系トレーニングについて理解するために必要な知識,具体的には運動(=筋肉の収縮)を行うための原動力となる,ATPについて書いていきます.
ATPとはアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate)のことであり,筋肉の収縮にはこれがADP(アデノシン二リン酸:adenosine diphosphate)とリン酸に分解するときに発生するエネルギーが使われています.
余談ですが12月3日未明,NASAからDNA中のリンがヒ素に置き換わった微生物が発見されたとの発表がありました.生命活動にATPではなくATAs(アデノシン三ヒ酸)を使っている生物が,この宇宙上に存在しているのかもしれません.
人間が運動を続けるために体内ではADPをATPに戻す作業が絶えず行われており,その生産ラインは複数存在します.いわゆる「有酸素運動」「無酸素運動」という区別はこのATP生産ラインの区別にほかなりません. もちろん,ある運動強度を超えた瞬間にパチッとスイッチが切り替わるわけではありません.それぞれのラインが互いに協調してATPを生産しているわけですが,大きく分けると以下のイラストのようになります.
なるほど,全然わからん.
順に説明します.
一番分かりやすいのがATP-CP系.これはイラストで十分理解いただけるかと思います.
シンプルだけあってその生産スピードもとても早く,瞬時に爆発的なパワーを必要とするときに働きます.しかしCP(クレアチンリン酸)は体内に極少数しかないため,この生産ラインは10秒弱で在庫切れになってしまいます.
体内のCPを使い切ると,続いて解糖によるATP生産が始まります.嫌気的解糖(無酸素運動)が行われれば筋肉中には乳酸が蓄積されます.乳酸は体内のpHを下げ(酸性に傾け)る働きを持っており,「筋肉を収縮させろ」という脳からの命令が伝わりにくくなっていきます.巷で乳酸が疲労物質と言われる所以です.
呼吸により体内に十分な酸素が流れていると,解糖で作られたピルビン酸や乳酸はアセチルCoA(活性酢酸)に変化することができ(好気的解糖:有酸素運動),これによりTCAサイクル(クエン酸サイクル)が始動します.またイラストにもあるように,脂質やタンパク質もTCAサイクルに寄与する様々な物質へと変化しATPを作り上げています.
(乳酸はそれ以外にも,血液によって肝臓に移動し,再び糖(グルコース)に戻る「コリ回路」による処理もされています.乳酸を一概に「疲労物質」と呼んで忌み嫌うのは,あまり正しい認識とは言えません)
さらにこのTCAサイクルは電子伝達系の起爆剤(NADH:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を大量に作り出しており,好気的解糖から電子伝達系までの一連の反応をトータルで見ると,グルコース1分子から実に38ものATPをつくることになります.強度の弱い有酸素運動では素早い生産スピードが求められない分,結果的に多くのATPを手にいれることができるわけですね.
以上でやっと前置きが終わりましたが,記事が長すぎるのもアレなので続きはまた今度.
今回の話題についてもっと詳しく知りたい方は,文中のキーワードをぐぐればたくさん情報が出てきますのでそちらを御覧ください.
次回は以上の知識を踏まえた上で,いよいよ循環器系トレーニングの紹介をしたいと思います.
エネルギー生成の仕組み,自分の体格,現在の体力と自分の目標を明確に把握していれば,どのようなトレーニングを行うべきかは自然と見えてくるはずです.