2年前のセンター試験といえば,「鳥コン中止」のニュースで大騒ぎしていたんですよね.ナツカシイ・・・
あの時私は「鳥人間」から「人力飛行機パイロット」へのジョブチェンジを余儀なくされたわけですが,今年こそは「鳥人間」のまま夏を迎え,無事ニートになれるよう願っています.
中止の告知を受けて書いた二年前の私の記事を鳥コンスレに貼った人は正直に名乗り出なさい.
前回の記事ではなにやら難しい言葉をたくさん使って,人間の運動(=ATPの分解)についてごにょごにょしてみました.
簡単におさらいするとこういうことです.
γ⌒) ))
/ ⊃__
〃/ / ⌒ ⌒\
γ⌒)( ⌒) (⌒) \ ∩⌒) 弱い運動を行うときはゆっくり・効率よくATPを作る.
/ _ノ :::⌒(__人__)⌒ 〃/ ノ 空気から吸い込んだ酸素によって糖質,脂質,タンパク質,
( <| | |r┬( / / )) そして乳酸も燃料として使え,運動は長く維持できるが
( \ ヽ \ _`ー‐' /( ⌒) あくまで弱い強度.(有酸素運動)
/ /
γ⌒))⌒) ))
ヾ __(((⌒ヽ / ⊃__ ゞ 強い運動を行うときは採算度外視
/⌒ ⌒⊂_ ヽ彡 / / ⌒ ⌒\ 急ピッチでATPを作る.酸素を
(⌒ミ(⌒ヽ∩/( ⌒) (⌒) |(⌒γ⌒)( ⌒) (⌒) \ ∩⌒)彡⌒) 反応系に組み込む余裕がなく,
ヽ ノ| :::⌒(__人__)⌒ ::| 彡_ノ :::⌒(__人__)⌒ 〃/ ノ そのせいで体には乳酸がたまるため
\ \ )┬-| / ミ ミ |r┬( / / )) 長時間動けない.(無酸素運動)
(((⌒ (((⌒ )、 ヽ_ `ー‐' ,/ / ≡ 彡 _`ー‐' /( ⌒)ミ⌒)
\ \ /
持久系競技では「できるだけ強い強度を,できるだけ長く維持」出来る人ほど優秀とされます.
人力飛行機で要求されるパワーも,ある範囲内に収まるとはいえ「ずっと飛び続けられる」ほど甘いものでもありません.
(工大祭では人力飛行機を飛ばすのに必要な負荷(約230W)をエアロバイクでこいでもらう企画をしていますが,体験された方は皆ペダルの重さに驚きます.そのくらい重いです.私も初めてこいだときは1分と持ちませんでしたorz)
今回はそういった「中~高強度・長時間」を目指す持久系トレーニングについて,前回を踏まえたおはなしをします.
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突然ですが,LTという言葉はご存知でしょうか.
これは乳酸性作業閾値(にゅうさんせいさぎょういきち:Lactate Threshold)と言います.運動強度を徐々に上げていくと,血液中の乳酸濃度は強度に比例して上がっていくのですが,ある強度を境にその傾きが変化します.
その境界より激しい運動をすると,体内に生じた乳酸の処理が追いつかなくなっていくことを意味しています.LTはいわば「有酸素運動と無酸素運動の境界線」とみなせる指標です.
もちろん「LTが高い」=「有酸素運動の範囲が大きい」=「高い出力をより長く維持できる」ということなのですが,これはあくまで目安であるということも頭に留めておくべきでしょう.
同様の指標としてHRT(HeartRate Threshold: 心拍性作業閾値),VT(Ventilation Threshold: 換気性作業閾値)があります.運動中の血中乳酸濃度を測定するのはかなり大規模な設備が必要なので,こちらを参照することも多いです.また,これらをまとめてAT(Anaerobics Threshold: 無酸素性作業閾値)と総称しています.
前回の記事に加えてココまで説明すれば,「持久系体力の向上」とは「乳酸の処理速度の向上」ということである,と言っても理解していただけると思います.
持久系トレーニングのメニューにはすでに様々なものが存在しますが,それぞれが何を目的としているのかというところを明確にしながら以下で説明していきます.
・LSD
Long Slow Distance の頭文字をとったもので,その名の通り弱い負荷の運動を長時間行うトレーニングです.このメニューは脂質・タンパク質をエネルギー源とする回路を活発にし,乳酸を作らない体にすることを狙ったものです.これによって筋肉中に酸素を送り込むための毛細血管が発達し,乳酸を作り出し始める運動強度が底上げされるようになります.しかし土台の底上げはできても天井を引き上げる効果は薄いため,ベースとしてこのトレーニングを行いながら後述のメニューを組み合わせなければ,ある段階で打ち止めになってしまうのではないかと思います.
・TEMPO
LSDよりも若干高強度短時間化したトレーニングです.AT出力付近で20~40分が目安といわれていますが,正直個人差も大きく文献によって見解が様々なところなので各自で模索するしかないと思います.これによってAT出力の向上が期待されるそうですが.運動しながら乳酸の生成,処理を行うことで体を順応させている,ということなのだと私は解釈しています.
・INTERVAL
無酸素運動⇔低強度での休息を比較的短い周期で何度も繰り返し行うトレーニングです.時間比率は1:1で,少なくとも10回以上繰り返せる程度の強度で行います.有名な練習法ですが,このメニューの肝はむしろ休息にある,というトコロがあまり認識されていません.言い換えればこのメニューは,乳酸を筋肉に溜める練習ではなく,筋肉中の乳酸を「運動しながら」処理する練習ということです.休息中に足をとめるのは効果ダウンです.LSDが「乳酸を作らない体にする」というのに対し,INTERVALは「乳酸を素早く追い出せる体にする」ということになるので,結果的にAT出力の向上が期待されるわけですね.トレーニング効果は高いですが体への負担も大きいため頻繁に行うと身も心も持たないと思います...
・REPETITION
全力運動⇔完全休息を何度も繰り返し行うトレーニングです.INTERVALよりも運動強度を強く,かつ休息の時間を長く取ります.INTERVALの一例とみなされることもあるようで,私自身この練習法についてはあまり自信がありません・・・筋肉に溜め込める乳酸の容量を上げる,といったところでしょうか.競争相手との駆け引きやゴール前に使うスプリントなんかで効果を発揮しそうですね.
具体的なメニューはあまり載せないようにしました.上記のものは間違った知識かもしれませんし,そもそも人によって適切な方法や練習に割ける時間などは違うわけで.
自分の体のことは自分で知り,自分で考えましょう,ということです.
前回・今回とも様々なサイトを参考にさせていただきました.興味が有る方はぜひggrks.
今回特にお世話になったサイトを挙げておきます.
・バケツ理論 - だれも知らない乳酸とスポーツのヒミツ
・Running Planet
パイロットの数値モデルがあったら素敵だなと
現役の頃からずっと思ってました
とある世代のペラ設計 様
コメントありがとうございます.
パイロットに求められているものは,部門の違いだけでなく
チームによって様々なので一概には言えませんが・・・
長距離飛行を目指すパイロットの性能に関して,個人的な感覚ですが,
1時間維持できる出力としては,230Wと260Wにボーダーラインがある気がします.
また,最大酸素摂取量(VO2max)を目安に言えば,
60後半でなかなかレベル
70あれば御の字,といったところだと思います.
今の自分のレベルを上記に照らし合わせると悲惨なものですがorz
的はずれな回答でしたら申し訳ありません.
補足,とはちょっと違いますが...
駆動部の強度設計時に多少関わると思われる,
興味深い記事を紹介させていただきます.
いわゆる「漕ぎムラ」のお話.
駆動部が受ける力を概算するとき,
単純に設計出力から導く理想の漕ぎ方と比べ,
実際は大きく異なる力が加わっている,
ということがわかります.
http://www.metrigear.com/2010/03/19/