菅生大会モータ報告
菅生大会報告
どうも。DDプロジェクトでおなじみ吉井です。
菅生大会では、コントローラのないモータを用いることとなったため、DC/DCコンバータ兼モータコントローラを制作することになりました。それでは、報告をどうぞ!
コントローラ製作
それは寝耳に水な出来事でした。
なんと、使う予定だったお世話になっているとある企業が作ってくれる予定だったDDモータが間に合わないと言います。…えっ??我が耳を疑いましたが、どうやら真実のようです。そして、仕方なく他のモータを探すことになり、見つかったのは定格450Wの直流モータ。定格不足&コントローラ無しという、お世辞にも良いモータとは言えない代用品でした。
コントローラ無し…ってことは作らなくてはなりません。作れる人は…現役ではたぶん私になってしまいますね…。これまで何度かDC/DCは作っているモノの、完璧に動いたものはあまりありません。しかも、菅生は扱う電力が多い上に、もしこれが動かないと走行すらできない。かなりのプレッシャーでした。誤解がないように言っておくと、誰のパーツができなくてもまともな走行は望めません。ただ、私自身が作るパーツとしてここまでの重要度のものは初めてだったという意味です。
どうやら、DDモータを作ってくれる予定だった企業の人が手伝ってくださるらしい。それをわずかな心の支えに、製作を引き受けました。
今回は、いつものDC/DCと違って、専用ICを用いることにしました。確実な動作を求められますからね。使ったのはTL494(降圧DC/DCコントローラ)と、LT1680(昇圧DC/DCコントローラ)と言うICです。何故、両方使わなくてはならないかというと、回生があるからなんです。菅生はアップダウンの激しいコースなので、下りなどでの減速時のエネルギーを無駄にしないため、回生制動が重要となってきます。
今回のパワー系の構成は、電池からは一定の電流でキャパシタに充電を行い続けます。この部分に必要なDC/DCは作って頂きました。こうすることで、電池がもっとも電力をはき出しやすい状態を作り出します。そしてキャパシタからモータへ電力を供給し、また回生時はモータからキャパシタへ電力を戻すと言う感じになってました。エネルギー変動は急な充放電に強いキャパシターに任せてしまうわけです。このキャパシタとモータの仲立ちをするのが製作しなくてはいけないDC/DCなのですが、まず加速時は、キャパシタの電圧をDC/DCで調節してモータを回します。これはキャパシタ以上の電圧を掛けるとモータの定格オーバーになってしまうため、あまりやりたくないので(多少は平気だったりします)降圧だけでよいだろうと言うことになりました。しかし回生は、モータの回転数によって出てくる電圧が動きまくるので、キャパシタとどっちが高いかは変動し続けます。今回の回生制動は電流値(モータのトルクが電流に比例するので)制御となっていたので、ある電流を回生するときには、モータの電圧とキャパシタの電圧の状態によって昇圧と降圧がなめらかに切り替わらなくてはなりません(詳しい話は…略w)。よって、昇降圧のDC/DCを作るハメになりました。しかも降圧は加速時を考えると双方向です(T_T)
これが難航しました。結局使うICはコントローラICだけでも3つ。その他を含めるとその倍以上。どれが機嫌を損ねても動きません。
しかも、電流値制御にしたことがさらに事態を悪化させました。もちろんドライバーの操作性を考えれば電流値制御が良いのですが、普通コントローラICは電圧を制御します。電流値は、ある値を超えると、保護のために電圧を絞って電流値を下げるという機能が付いているぐらいです。そこで!電流センサ(値のちいさい抵抗を回路に入れ、電圧降下をICに入力します)からの電圧値と比較する基準電圧を、ボリュームでいじくってICを「だます」ことにしました。基準値が変わってしまえば、制限を始める電流値を変えることができます。ICは忠実に仕事をしてると思いこんでいますw
が、これが動かない…。降圧部分は安定性はともかく動作まで持ち込んだのですが、昇圧が動かない!こっちは降圧に比べ、ICをだます手段が複雑だったので(オペアンプを何段もつなげて…ごり押しとはまさにこのこと)、うまくいかなかったのでしょうか。意味不明な発振波形が出てきます。あれこれやってみますが、事態は進展しません。どうしよう、時間は迫っている(あと一週間なんてとうの昔に切ってました)。間に合わないことは許されない!しっかりしろ俺!!
たまらず倉庫を飛び出し、深夜の散歩(このときは泊まり込みでした)。いろいろ考えました。全力を出せなかった秋田大会のこと、HPAの残念な結果も頭をよぎりました。このままで終わって良いはずがない!絶対動かすんだ!!そう決意を固めなおしました。
そのとき、思いついたのが…LT1680の回路を全部パーにして昇圧部も494で組む手段でした。機嫌を損ねているのはセンサ部。494では曲がりなりにも動いている。昇圧専用のICではないが使えないことはないと、例の企業の人がおっしゃっていた。これで行こう!!
倉庫に引き返した私は、一度組んだ昇圧部の部品を、すべてはずしていきました。取りにくい部品は容赦なくニッパーで切り刻みました。手段なんか選んでられません。一通りはずし終わると、元からある、回生用の494の降圧回路から昇圧部に回路を延ばします。もちろんキャパシタとモータの電圧を比較して、切り替わるように。
明け方、やっとの事で回路の制作は終了しました。4,5時間経ったでしょうか。一緒に作業していた木下君の話では、声を掛けることもはばかられるぐらい集中していたみたいです(^^;)
パワー部を除いて、センサの信号だけを擬似的に与えた試験では、今までよりは、まともに動いているようです。心を決めて良かった。そして出発の夜。いよいよ、パワー部分(FETてんこ盛りの基盤)と繋いで試験するときがやってきました。が!ここで衝撃の宣告。一緒に来てくれるはずだった、例の企業の方が本業が忙しくて来られなくなるとのこと。プレッシャーは倍増しました。この先トラブっても、対処できるのは自分だけ。もちろん電話で聞くことはできるけれど…。
とりあえず、行く前に回転試験だけでもしておこうと、その方が居るときに意を決して、ボリュームをひねると…動かない!配線を確かめても…。なんで!何で動かないの!?完全にパニックに陥ってました。「落ち着いて、向こうでゆっくりとやれば大丈夫ですから」みたいなことを言われてやっとクールダウン。その方が帰られたあと、もう一度冷静に回路を確かめると…あ、配線違ってる…。パニックって恐ろしいですね。何にも分からなくなります。私も、まだまだですね…(結局豊田でもパニックは繰り返してしまいますが…)。気を取り直して、もう一度ボリュームをひねると…回りました!!急にボリュームを回生側に回すと…一瞬ですが回生電流が流れました!!さぁ、出発です。細かい調整を残し、いざ菅生へ。
いざ菅生へ
現地に着くと、早速調整の続きです。安定性がまだまだなのか、どうも音がヤバイ。その昔NATSで焼いてしまったときのような雑音がします。今回は素子の余裕を大きく取っているので直ぐに焼けたりはしませんが、このままで走らせることはできません。
そのころ、クラッチ回路は制作の真っ盛り。機械部分も回路部分も。もっと私に力があれば、調整なんかちゃっちゃと終わらせて、回路を手助けできたのに…。この回路もパワー回路の端くれで、担当しているのはこの手の回路は初めての木下君。フォローしてあげたいのにできない…。
結局、予選は走れずに宿へ。早速オシロスコープも動員して調整を続けます。やはり不安定な波形を示してます。ノイズを考え、配線を見直したり、位相保証回路を付け足したり、試行錯誤するもなかなかうまくいかず。
位相保証回路とはなんでしょうか。DC/DCは、フィードバック制御によって動いてます。要はセンサの信号を監視して行きすぎたら減らし、足りなかったら増やす制御法です。その際、センサの信号が出力に生かされるまではタイムラグが生じます。ある周波数以上にDC/DCの状態が変化すると、タイムラグのおかげでセンサの信号が追いつかなくなり、なんと、行きすぎたらさらに増やし、足りなかったらさらに減らすと言う状態に陥ります。そうなるとせっかくのセンサは足を引っ張り、DC/DCは発振(出力が安定しない。最悪壊れる)してしまいます。これが位相が180°回ってしまうと言う状態です。これを防ぐのが位相保証なのです。
ともかくこの回路でもダメです。そして思いついたのが、コイルのギャップ調整。コイルのコアのギャップ(スキマ)を増やすとL(インダクタンス)を増やすことができます。そうすると、詳しい説明は省きますが、DC/DC回路の共振周波数を上げ、発振しにくくすることができる…確かそうだったはず(信じてはいけません)!早速やってみると…。何とか降圧部は安定化させることができました。このとき、隙間を埋めるのに使ったのは…なんと夜食のポッキーの箱を切ったもの!ポッキー恐るべし!!でも、昇圧部は…。どうも良くない。切り替えがうまくいってないようです。もう夜も更けてます。そのあとは…。いろいろいじりすぎて、実のところよく覚えてません。でも、なんとか昇圧はするようになりました。しかしそこで眠気は限界に…。
次に起こされたのは出発時でした。不安を残したまま、ピットに入り、準備。電池も積まれ、定電流DC/DCも積まれ、キャパシタも積まれ…。クラッチの機械部も出来上がっているようです。回路は…。一緒に宿で頑張ってましたが芳しくない様子。ロガーも同じく。みんな頑張ったのに…。車班は何とか完成にこぎ着けたように見えました。無情にも時間は過ぎていきます。スタートの時間も過ぎ…。
DC/DCはもう見切りを付け、現地では積み込むのみにしました。キャパシタのゼロ電荷チェックを終え、キャパシタにチャージを始めます。流石にプロのDC/DCはしっかりと動作しています。すごいなぁ…。そして、駆動試験。当初予定の48V を掛けるのは初めて。ボリュームをひねると…やった、動いた!その直後、「ガクガクガク!!」激しい音を立てます。心臓が止まるかと思いました。瞬間的に回路の暴走が頭をよぎりましたが、どうやらクラッチが意に反してかみ合ってしまったがためでした。もう、気が気じゃないです。全然ホッとなんかできません。次は我が身かも…。悪い方に考えたらきりがなくなっていきます。
時間はさらに過ぎ、ロガー、クラッチ回路は結局動かすことができず回路を簡略化していくことになった模様。応援の人も見守る中、スタートすらしないのは考えられない…。電圧電流は、テスターを積んで代用することになりました。もう一時間は過ぎていたと思います。
話をしようにも言葉が詰まり、目が熱くなってきました。この感覚…。そう、何故か泣いていました。何でかはわかりません。なんかもういろいろこみ上げてきてしまいました。悔しさもあるでしょう、自分勝手ながら責任も感じていたのかもしれません。いよいよ、スタートさせるときが来ました。ドライバーが乗り込み、カウルをかぶせ、スタート。チェーンが飛ぶ音がします。回路の発振が頭をよぎります。発振すれば、電流値が不安定になりトルク変動を引き起こすからです。モータマウントがたわみ、チェーンのテンションが足りなくなったのが原因だったようですが、ネガティブマインドに陥った私は、ひたすら自分のせいだと思ってました。勝手ですね…。
一周で良いからしてきてくれ!!その願いも虚しく、ピットレーン出口のわずかな坂で停止したのが見えました。ただ、ただ、呆然としてました。チェーンが外れたとの連絡。代表(前輪操舵系担当)が手を血だらけにしながらも即興でチェーンテンショナーを作り上げ、再スタートを試みるも、うまくいかず、2時間終了…。あとから聞いた話では電流値が0だった模様です。配線の接触不良なのか、回路がおかしくなったのか。今となっては分かりません(そのあとキャパシタを放電するためにモータを回した際には回っていました)。とにかく、記録0周。これが現実でした。
本当に悔しかった。結果を出せない悔しさ、これは経験したものにしか分からないのかもしれません。勝手に泣いていた私ですが、よっぽど泣きたいのは他のメンバーだったに違いないと思いました。でも、ある意味良い経験だったのかもしれません。悔しい気持ちになるのは一生懸命やったから…。そんな気がしたからです。
でも、もうこんな思いはたくさんだ。雪辱は必ず豊田で!!レース後のミーティング(?)では「絶対完走します」そう言うのがやっとでした(そしてまた泣く…泣き虫な電気屋だなぁ)。
ここまで読んだあなたはエライ。個人感情ばっかりじゃん、これ…。報告になってないなぁ…。
豊田の報告はDD制作記の最終回にて。これも長いですよ(^^;)