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異常気象


前日、7月26日は肌寒いくらいの気温でおまけに昼間はすさまじい風が吹いていて、プラホ上で3〜6m/sほどであった。それでも滑空機部門は何機か強行されたが、飛び出した滑空機が向かい風に押し戻されてプラットホーム上に戻ってくるようなひどい有様だった。 ところが、7月27日当日は前日よりやや弱まるものの強い風の予報が出ていたものの、昼間になっても前日ほど強い風は吹かず、無事に機体組み立て、移動ができた。機体セットアップなどはみんなに任せて、自分は他チームのフライトを見ながら風の状況を予測し、飛行ルートを考えていた。例年の琵琶湖とは違い、この日は空気が澄んでいて多景島や対岸が見渡せたので、その位置関係などがしっかりと把握できた。

東北大の大会記録更新


東北大は、プラットホームから離陸後ほぼまっすぐに飛んでいたが、3〜4km付近で東に曲がっていった。その後東の湾に入っていったが進路も修正して湾を抜け対岸に向かって飛んでいった。フライト時間約70分、飛行距離24kmで対岸に到達した。 東北大のフライトの様子から、多景島の手前に湖風の強い地帯があり、その北西の風につかまって東岸へ曲がっていったようだった。しかしそこから進路を修正した後はそのまままっすぐ対岸に向かって飛んで行ったようだった。そのフライトを見てスタート後から多景島までが風が荒れていてそこを抜けられれば風が安定していることが予想できた。 いきなりの大会記録更新に驚いたが、東北大にできてうちにできないわけがないと、確信に近いものもあった。ただ、東北大は北岸のプラホから最も遠いあたりに着水したらしく、当初の予定通り北に向かってもそれ以上の記録が狙えないので、予定変更を考え始めた。

日大の琵琶湖大橋到達


そんなことを考えている中、日大が飛び立っていった。日大はプラホと多景島の中間で南西に方向転換して、琵琶湖の南端へ向かっていった。天気予報では北西の風の予報が出ていたから、北に飛んだほうが風に正対して飛べるが、東北大を超えるフライトを目指して南へ向かったのだろう。しかし方向転換した後も高度を十分にとって安定したフライトを続けていたので、沖に出てしまえば岸辺付近と異なり、風が安定していることが予想できた。 途中で映像が来なくなってしまって沖島付近からどう飛んだのかは分からなかったが、南に向かうことを考え始めていたので参考になった。 そのころ「Promontoire」は桟橋の手前まで来ていて、自分は読売のスタッフに呼ばれたので宗介と握手をして対岸で会うことを誓い、港へ向かった。 結局日大は琵琶湖大橋の手前で強制着水させられたらしいが、そのときに2回旋回するほど余裕があったらしい。これによって、琵琶湖はそれ以上の記録を出すために飛ぶところがなくなってしまった。北へ向かうか南へ向かうか、決断のときは迫っていた。

府立大のフライトと飛行ルートの決定


府立大はスタートして北に向かっていったがラダーを左に切っている様子が見えたので、西風に流されていたのだろう。4km越えた地点あたりで左に旋回し始め、日大と同じように南端を目指して飛んでいった。 そのころ、ボートに乗るように指示されたので乗船して待っていると、府立大のフライトを追っているボートが燃料切れとなるから、そのかわりに自分が乗っているボートが府立大を追いかけることになった。自分は降ろされるかと思ったが、沖に出ていたので、そのまま行くことになった。 猛スピードで沖島のほうに向かっていると、府立大の機体が見えてきた。高速機という話だったが、追いかけてみた印象としてはそれほど機速は出ておらず、頭上げで飛んでいた。しかし風はあまり強くなく、機体は安定していた。周囲を見渡しても湖面にはさざ波が見られず、琵琶湖中央部はほとんど無風状態だった。 この状況を見て自分は南へ向かうことを決め、プラットホーム上の蓮見、宇田川に電話してそのことを伝えた。しばらくすると自分の乗っているボートも燃料が少なくなったので港に戻ることになった。

「Promontoire」


港に戻ると、荻原次晴の乗っているボートに乗り移り、プラホの下まで行き、インタビューの後にテイクオフを待った。 宗介に電話をかけるとすぐスタートの体制に入り、「3,2,1,スタート!」の声が聞こえたかと思うとプラホから「Promontoire」が飛び出してきた。ピッチも安定しており、滑らかにすべるように飛んでいく機体をボートは後ろから追いかけ始めた。心配していたほど左右バランスは悪くなかったが、機体の進路を確認しているとみるみる高度が下がってきて、気がつくと高度は2,3mまで下がってしまっていて、回転数を上げて高度を上げるように指示したにもかかわらず回転数はいつものようには上がらず、高度もそれ以上には上がらなかった。何が原因かは分からなかったが、何度言っても回転数が上がらないので頭上げで飛ばざるを得なかった。このときパイロットは回転数を定常の90回転に上げようとしていたらしいが、70〜75回転でこぐのが精一杯だったらしい。 そういうわけで、まずは予定通り多景島を目指して飛ぶことになったが、予想外にその飛行姿勢は相当頭上げのままで高度は1〜3mの低空飛行であった。 スタートして10分ほどたった頃だったか、プラホと多景島のちょうど真ん中あたりを飛んでいたとき、衝撃的なものを見つけ、思わず息を呑んだ。なんとウイングレットが折れていたのだった。ウイングレット根元のカーボンパイプの相貫部のエポキシ樹脂が剥離していたためウイングレットがひらひらしていて、そのときは完全に上面側に曲がってしまっていた。しばらくするとカメラマンも折れているのに気づき、次晴にも指摘されたが、宗介には知らせるべきではないと思い、コメントもそこそこに切り上げて再びすぐに今までどおり指示を出していった。 そうこうしているうちに気がつくと多景島が近づいてきており、ここで南西に方向転換して今度は沖島を目指して飛ぶように宗介に伝えた。ところがラダーを左に切ろうとしてもなかなか左からいい風が吹かなかったらしく、ようやく方向転換できた頃には多景島に近づきすぎてしまい、多景島の南数百メートルまで接近していた。 多景島を離れると風がほぼ正対で安定してきたのか、機体の高度が徐々に上がっていき、高度4,5mで落ち着いた。しばらくは対岸を左手前方に見ながら比較的安定したフライトが続き、気がつくと飛行距離は10kmを超えていた。 ウイングレットが折れているのを見たときには昨年の記録を超えることも難しいかと思ったが、これで昨年の夏から目標にしてきた10km飛行は達成できた。しかしすでに日大は34km飛んでおり、まだその3分の1しか飛んでいないのだ。 その後横風に流されたり、風向きが変わったのか徐々に高度が下がったがほぼ目標の進路を維持しながら飛ぶことができた。多景島付近では遠くに見えた沖島に、今ははっきりと近づいてきていることが実感できた。沖島の南側は北側よりも狭く、府立大がそのあたりで着水したらしかったので、沖島の北側を飛ぶことに決めていた。そこで沖島の北側に向かうように指示を出したが、またなかなか曲がれず、まっすぐに沖島に向かっていった。沖島が視界に大きく広がってきてあせりだした頃からようやくゆっくりと機首が北よりに向いていき、なんとか沖島をかわして島を左手に見ながら通過した。 沖島を抜けたあたりで20kmと思っていたが、実際にスタッフから20kmを超えたことを聞くと、本当に20kmを超えたんだと少し実感がわいてきた。しかし背風の中を飛んでいたのだろうか、機体の高度はもはや2m以上に上がることはめったになく、後輪が水面をかすることが何度もあったのでそれどころではなかった。 機体はひどい頭上げとなりアップアップで飛んでいたので、いつ着水するかと気が気ではなく、ひたすら高度維持に集中し、水面が近づくたびに宗介に叫び続けた。そうやって必死になって叫び続けていたせいか、はたまた背風で対地速度が上がったからなのか、スタッフから30kmを超えたことを伝えられたのは自分が思っていたよりも早かった。琵琶湖の南岸と北岸が左右からゆっくりと迫ってくる中、「Promontoire」は水面すれすれを琵琶湖大橋へと向かって飛んでいた。 そして、何度水面が後輪を絡め捕ろうとしたときだったか、ついに最期のときがやってきてしまった。ボートが機体の右翼側にまわりこみ、宗介が苦しそうにこいでいるのが見えた。必死の願いも今度ばかりはかなうことなく、「Promontoire」はその後輪からゆっくりと琵琶湖に着水した。その瞬間叫んでいた。「おつかれ、宗介!ありがとう、宗介!」 飛行時間1時間26分、飛行距離32kmであった。

大会を終えて


今回の大会は梅雨が明け切らない中で行われ、例年になく気温が低かった。さらに比較的風が穏やかであったのも幸いして、有力チームの飛行距離は大幅に伸びた。いきなり東北大学が琵琶湖北岸に到達し大会記録を更新したかと思うと、日大は琵琶湖の南を狙い琵琶湖大橋に到達し、できたばかりの東北大の大会記録を塗り替える大記録を樹立するということで、異常な雰囲気が大会を覆っていた。 そんな中フライト順最後に登場したMeisterの「Promontoire」はテストフライトにおける桁折れや梅雨による調整不足もあり、決して十分な状態で大会に臨んだとは言えなかったが、大フライト続出の雰囲気の中でも臆することなく果敢に琵琶湖にチャレンジした。例年より気温が低かったことと風が比較的安定していたことが幸いして、チーム記録を大きく伸ばすことができた。 結果は2位に終わり3連覇はならなかったので悔しい部分はあるが、優勝した日大の余裕ある34kmのフライトに比べれば、飛行中プロペラ回転数が定常まで上がらないという原因不明のトラブルやウイングレットの破損に悩まされながらなんとか32kmを飛んだ「Promontoire」のフライトは満身創痍であり、その差は2kmなどではないだろう。しかし飛行距離32kmという結果については、Meisterが毎年チーム記録を更新してきている流れを受け継ぎ、すばらしい記録を作ることができたと思う。これだけの距離を飛ばすことができたのはパイロットのスタミナと1時間半以上応援し続けたメンバーの想いの賜物であったと思っている。 設計の立場としては、まだまだ詰めが甘い部分が多々あり、それが本番でのフライトにはっきりと現れてしまったと考えている。反省し改善しなければならないことは多いので、後輩に伝えるべきことは伝え、彼ら・彼女らがそれを糧にしてくれることを願っている。

 最後になりましたが、私たちの活動を支えて下さった企業・大学関係者の皆様、ならびに温かく見守ってくださったOB・OGの方々には本当にお世話になりました。 皆様の多岐にわたるご支援ご協力に感謝して大会報告の結びといたします。ありがとうございました。